特定非営利活動法人 明日の歯科医療を創る会POS
歯科医療ネットワーク メールマガジン

患者中心の歯科医療T

【患者に選ばれる歯科医療とは】 
〜選ばれる歯科医療とは〜
選ばれる歯科医療サービスとはどのような要件を持たなければならないのでしょう。ここでは医療という側面と経営という側面から考察してみます。
【医療としての側面】
>戦後、医療界はの世界的に“基本的人権の尊重”という概念を踏まえ、医療は患者の物であり患者の権利を擁護しなければならないという考え方に変化してきました。これを踏まえて、1995年には世界医師会総会で医療者自身によって医療者が守るべき患者の権利を宣言(『患者の権利に関するリスボン宣言』を改訂)しています。
ここで謳われている『患者の権利』には様々なものがあり、最も重要な『患者の権利』として患者自身が医療サービスを自己決定して選択するインフォームドコンセントの概念が明確にされていることです。つまり、医療者は患者のインフォームドコンセント無しに医療行為を行ってはならず、またこのインフォームドコンセントを出来るように患者への支援を行なうことを医療者の義務であると宣言していることです。
医療の主体者は患者であり、患者個々の価値観を軸として、最善の医療は何かが選択されるということであり、医療における世界標準といえるでしょう。私たち医療者は、このような概念を倫理基盤とした医療サービスの提供が求められており、医療としての側面から選ばれる医療と言えるでしょう。

【経営としての側面】
パターナリズムという倫理基盤に立脚した医療サービスの形態は、産業界での『Product out』の考え方によく似ています。企業がマーケットに対してよりよい商品を作れば売れるという構図のごとく、歯科医療者は患者に生じた病気を医療者が考えるより良い治療で治すというサービスを提供することで売れたからです。
しかし、既にご存知のように産業界においてこの考え方は『』から『Market in』の発想へと変化しました。その背景には、供給側が過剰になったという事実がありました。歯科医師が過剰となった歯科医療サービスの供給体制もまさしくこの状態と言えます。

歯科医療サービスがボランティアの活動であり、経営的な収支が問われない状況で行なわれるのであれば歯科医師数が増加し、歯科医師あるいは歯科医療機関あたりの患者数が減少することは望ましいことです。また、医療サービスが提供するのは「病気を治療する」という行為ですから、歯科的な疾患数が減少するということは望ましい結果であるともいえるでしょう。しかしながら皮肉なことに、このような状態は歯科医院の売り上げや収益という点からはマイナスの結果を生み出します。
歯科医療サービスは経営活動として提供されています。歯科医師が歯科医療サービスを提供することを生業とし家族や従業員の生活を賄っています。付随して歯科医療を支える歯科技工士や材料や器材を提供する歯科医療業界企業とそれらに従事する者の生活を歯科医療サービスによる報酬によって支えています。
経営活動として収益が減少することは、その存続さえ危ぶまれることです。経営活動であるから他の業種と同じようにマーケットにおいて淘汰されることが望ましいという考え方もあります。しかし、医療は他業種よりも公益性が高く、この考え方が適応される事には無理があるといえます。より大きな社会貢献を齎しつつ、歯科医療サービスが存続していく方策を練る必要があります。
実際に、産業界と同様にマーケットにその答えを求めると、歯科医療も一般の産業と同じく『Market in』の発想で考えるならば、患者が何を望んでいるかから考えなくてはなりません。まさしく「健康であること」です。ですから歯科医療サービス自体もこのマーケットのニーズに呼応して「健康を提供する」というスタイルに変化しなくてはならないのです。すなわち歯科医療サービス自体が「病気―治療」というモデルから「健康―予防」というモデルに変化することが必要だということです。
くしくも厚生労働省が提唱する「健康日本21」の中でもこの方向性が謳われています。また近年改訂された医師法にける医療の定義にも予防とリハビリテーションは明確な医療の範疇と謳われました。マーケットのニーズに対応することが経営的にも有効に働くのであれば、私たちの業界もこのマーケットのニーズに対応できるよう自己変革を行なわなければならないでしょう。逆にその自己変革を行なわなければこの社会に存在する価値を失い、それは結果として経営が立ち行かなくなり企業としての存続が不可能となることです。これが歯科医院が公益性のある企業として存続していくために変革せざるを得ない要件と考えられるでしょう。
これらの変わらなければならない要件変わらざるを得ない要件を兼ね備えた医療サービスこそがこれからの時代に選ばれる歯科医療であるといえます。

明日の歯科医療を創る会POS
歯科医療ネットワーク メールマガジン 2005.01.24(2)