特定非営利活動法人 明日の歯科医療を創る会POS
歯科医療ネットワーク メールマガジン

患者中心の歯科医療V

【患者の権利を守る医療 その3】

    患者の期待に添った医療


患者中心の医療と患者の期待

患者中心の医療を構成する第2の要件は「患者の期待に添った医療」ということです。
これは患者の権利擁護と同じく、患者の基本的人権の尊重という考え方から発展してきたもので、人はそれぞれ異なった価値観を持つため、医療サービスの結果についても異なった期待を持っています。
従来のパターナリズムという医療概念により医療サービスが提供された場合には、医療者の価値観が最良のものとして提供されるため、患者個々の価値観や期待が反映されず、患者の権利が侵害されることになりかねません。
先ずは患者の期待を明確にし、その期待をまかなう支援者として医療者がどのような医療支援を行なうかを決定しなければならないのです。これが「患者の期待に添った医療」ということです。


患者の表面的(原始的)欲求と
       患者を動かす真の期待


患者の期待に添った医療を行なうということは、患者の言うままを受け入れる医療サービスを提供するということとは異なります。この点は多くの医療者が誤解をしている点です。


病気を治すため?
病気により生じた問題解決のため?
→
人の行動は背後にある
『期待』に裏づけされている

元来患者は医療知識が乏しく、自分に発生している問題の種類や程度、またその治療についての適切な知識を持ち合わせていません。このような状態で患者の希望を聞いたならば、患者にとって都合の良い希望のみを提示することになります。その希望は集約すると「早く、安く、痛くなく、完全に、見た目も美しく、治して欲しい」といった内容になるのではないでしょうか。これらはいわゆる患者の表面的(原始的)欲求なのです。では、歯科医療者がこのような希望をそのままに受け止め、この希望を叶えることは可能でしょうか。たとえば「早く、安く、痛くなく、それなりに、見た目は我慢していただいて、治す」ことは可能でしょう。あるいは、「必要な時間を使い、妥当な費用で、痛みを最低限に抑えて、可能な限り完全に治し、なおかつそれが悪くならないように管理し、見た目も自然な感じに、治す」ということも出来るでしょう。患者の表面的欲求に対し、歯科医学や歯科医療を知っている医療専門家では判断が異なるのは当然です。

さて、患者中心の医療が患者にとってどのような医療が良いのかを選択していただく、患者の自己決定に基づき展開されるとしたならば、このような専門家として出来うる内容の違いについて、十分な説明を行い、その上で患者自身の自己決定の結果を受け入れるということが重要な手順であり、このための手順を的確に行うことは歯科医療者としての義務となります。では、このような医療選択にまつわる情報を提供し、その選択を患者に委ねれば十分なのでしょうか。

患者が医療サービスの内容を選択するにおいては、表面的で容易な選択基準により選択してしまう傾向があります。わかりやすく言えば、保険適応がないが審美性・機能性・適合精度が高いクラウンが10万円で、保険適応のクラウンが負担金として3000円というような場合、患者はわかりやすい金額の違いにおいて選択してしまう傾向が高いものです。しかし、この患者には「いつまでも若々しくありたいし、歯を大切にして入れ歯にはなりたくない」、なぜなら、「いつまでも異性からは魅力的な女性であると言われたいし、そのような自分であり続ける事が自分らしい自分である」といった本人の自己実現の姿と繋がるような期待(真の期待)があったとしましょう。この目的を達成するには、目先の金額的な問題以上に、より質が高く審美性が高いものを採用する事が重要であることは、医療者であれば容易に判断が出来ることです。

つまり、患者に情報を与え患者による自己決定において判断をしていただくこがは重要ではありますが、その判断を行う基準は、表面的な部分によるものであってはならず、患者が自らの自己実現に繋がる深いレベルでの真の期待を明確にした上でその期待をかなえるものとしてどのような選択が適切であるのかを判断していただく事が大切だということです。そのために歯科医師は患者自身が無自覚の新の期待に気付くよう、また歯科医療者が新の期待を踏まえた上で患者自身の期待の実現を支援できるよう、患者の期待を聴きだすことが大切なのです。このような手順で医療を展開する事が患者の期待に添った医療を行うということなのです。

 



患者中心の歯科医療シリーズ予告

****患者中心の歯科医療W****
☆患者中心の歯科医療はなぜ予防歯科医療なのか


明日の歯科医療を創る会POS
歯科医療ネットワーク メールマガジン 2005.03.22号