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患者中心の歯科医療
【医療システム変換のキーワード】 
〜歯科医療契約U〜
最善を尽くす歯科医療

一部の歯科医師の間では、「保険では十分な治療は行えない」と明言し、治療の質に対して一定の妥協を是とする考えがあります。これは「最善を尽くす」という契約要件と矛盾することとなり、容認されるものではありません。
歯科医師の見解は、保険制度が保証する価格は低すぎて採算が取れないため、治療において最善でない状況が発生することもやむをえないというものです。しかし、医療行為は患者と医療者の間で成立する契約であり、一旦患者と医療契約を結んだ歯科医師は、いかなる事由に関わらず最善を尽くさなければならないのです。つまり「保険制度では十分な治療はできない」という歯科医師側の言い訳は通用しないということです。
また、保険制度であったとしても一旦患者との医療契約を締結したならば、あなたの最善と考える医療結果が得られるためのすべての知識と技術を履行しなければならないということなのです。

歯科医師が保険制度の制限によりこの程度しかできない、と最善を尽くさなかった場合には、患者との医療契約を不履行したこととなるのです。

医療者は常に患者にとっての利益を考え、そのために最善を尽くさなければなりません。これは患者との医療行為自体の定義からも規定されていることなのです。あなたのビジョンを明確化し、それを支える医療展開の環境を構築するにおいては、患者との医療契約が例外なく最善を尽くせるように配慮しなければならないのです。
最善を尽くす歯科医療実践のポイント
上に述べた事から医療契約を具体的に実践するということのポイントは何か、その為には何をどのように伝えればよいのかについいて検討します。

先ず、正しい医療を行なうには何が大切なのかを考えてみてください。正しい医療をエビデンスに基づいた良好な結果が得られるように実践する時に最も必要なものは、適切な手順を確実に行なう時間を使うということです。
保険医療制度という低価格で一定の利益が確保できる医療サービスを提供しようとする時には、いかに早く治療を完了するかがポイントとなります。しかしこのような時間の短縮は、必要な介入の手順を間引いたり、治療完了時の確認作業を省略したり、小さな問題は目をつぶって見過ごすといった、医療の質が低い医療介入を誘発しかねません。
これでは必要な手順に従ってベストを尽くして行なうというこの契約の根幹をなす部分を達成できない結果を招くのです。結果、医療契約は遵守されなかったということとなり、歯科医師は患者との契約を履行しなかったという契約違反に問われることとなります。このような結果にならないためには、問題解決の処置に対して必要な時間を必要なだけ使う事が大切です。しかしこのドクターが時間を費やす事、それ自体が最もコストの発生する部分です。

この問題の解決に当たっては、患者に対しあなたとの契約を履行するためには時間がかかり、そのためにコストが発生するということ、そしてそのコストは患者に負担してもらわなければならないものだということを、伝達しなければなりません。
つまり、必要なコストを患者に正しく知らせ、了解を得て請求する事が大切なのです。その価格が保険診療でまかなう事が出来るのかできないのかは、ドクターごとの考え方や技量、あるいはまた経営環境によりますが、このような医療システムの基本に関する事柄も医療サービスを利用する患者には開示されなければならない情報です。
このような情報を開示された患者は、たとえば保険診療の負担の範囲で治療を受けたいので、そのコストに見合う手順により十分な医療介入が出来ずその結果を受け止めなければならないことを了解するか、あるいは保険制度を離れたとしても、良質の医療サービスを選択しようとするかを自己決定して、医療者に治療を依頼するという行動を採るようになります。
準委任契約において医療介入を行う場合には、良質の医療結果を提供するためにそれなりの時間を使う必要があるということを確実に伝え、そのうえで患者のインフォームドコンセントを獲得しなければならないのです。
  

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2005.11.02